2009年 07月 19日
中島敦展を観る |
午後2時から「中島敦の文学―中国文学との関わりから―」と題した吉崎一衛氏の記念講座を拝聴。「狷介」という語をキーワードに、敦が、伯父の斗南と『山月記』の主人公李徴、そして自分を重ね合わせていたというのが論の骨子。ただ「次韻」を説明するのにわざわざ子規と漱石の漢詩を例に出し、銭湯の富士山の背景画の話までしたのは(サービスのつもりだったかもしれないが)、敦の話を聞きたくて来た者にとっては時間の無駄で、それよりは(時間が足りなくなって省かれてしまった)敦の叔父、端(斗南)の漢詩の解説をしてほしかった。
それから閉館時刻の午後5時まで本展をじっくり拝見。全集で私が繰り返し読んだ小説の自筆原稿や書簡の実物が見られてうれしかった。敦の筆跡はその文章の内容と文体に似て、端正ですがすがしく美しい。現代の作家の作業はほとんどワープロとEメールで済んでしまい、自筆はゲラの赤字校正くらいなので、将来の文学館にはあまり面白い展示物がなさそうですね(いや、中にはワープロを使わずあくまで自筆の人もいますが。江國香織さんとか)。
敦が描いたスケッチも数点展示されていた。花や犬の人形や風景など、どれものびのびしたいい絵だ。南洋から幼い息子に送った絵はがきや妻タカに宛てた手紙には愛情があふれている。妻や息子が敦に宛てた手紙の便箋は折り鶴柄。
また、敦は将棋が得意だったそうで、棋譜を記したノートも展示されていた。そのページの左端に、長男・桓(たけし)が鉛筆で落書きした家族の似顔絵があった。「オトウチャン、オカアチャン、ボク、ノボル」と書き添えてある。この「オトウチャン」の絵が、敦の髪型や眼鏡などの特徴をよく捉えていてそっくり! 図説にその将棋ノートの図版も掲載されていたが、残念ながらこの鉛筆の落書きは薄くてほとんど見えない。だからこれから行かれる方は気を付けてよーく見てください。
子どもの絵にはなんだかすごいパワーがあると思う。敦からはちょっと脱線するが、これは昨日、姪から届いた絵。「きゅわパション」と書いてあるのは「フレッシュプリキュア!」の「キュアパッション」のこと。
オールカラーの『図説 中島敦の軌跡』(編集:中島敦の会)のほか、『弟子 自筆原稿覆刻』(発行:中島敦の会)と、敦のクレヨン画「おれんちのぱんじい」の絵はがきも買ってしまい、想定外の散財。
そのあと二〇数年ぶりに「港の見える丘公園」(以前来たときの記憶はおぼろげ)、フランス山をぶらぶら歩いて元町へ。
フランス山の風車。
フランス領事官邸跡。
一頭のモンキアゲハに導かれるように階段を下りる。
元町商店街から汐汲坂を上る。敦が教師として勤務していた横浜高等女学校はこの坂の途中にあった。
山手本通りを引き返して元町公園方面に向かう。敦がよく散歩していたこの辺りは洋館が建ち並ぶハイカラな景色。
by come-and-go
| 2009-07-19 23:58
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